法華経「授記品第六」①――星々の約束、あるいは永遠の食卓

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法華経「授記品(じゅきほん)第六」の現代語訳です。仏の慈悲の雨に潤された四大声聞(摩訶迦葉、須菩提、大迦旃延、大目犍連)に対し、ついに「授記(未来における成仏の予言)」が与えられます。長老たちが抱えていた「小乗の悟りへの安住」という殻が破られ、未来永劫にわたる菩薩としての旅路が約束される感動的な瞬間を描きます。

目次

第一の光――大迦葉への未来記

慈悲の雨の譬えを語り終えた世尊は、満足げに頷かれた。  そして、その視線を最長老の弟子、摩訶迦葉(まかかしょう)へと向けられた。  

迦葉の老いた瞳には、すでに「小乗」の殻を破った清々しい光が宿っていた。

「私の弟子、大迦葉よ」

仏の声が、厳かに響く。  お前は未来の世において、三百万億もの諸仏にお仕えし、供養し、敬い、その教えを広く宣べ伝えるだろう。  

そして、その果てしなき旅の終わりに、ついに仏となる。

「その名を、光明如来(こうみょうにょらい)と言うであろう」

光り輝く者。十種の称号を持つ、完全なる覚者となるのだ。  その国土の名は「光徳(こうとく)」。時代は「大荘厳(だいしょうごん)」と呼ばれる。  仏としての寿命は十二小劫。正法(正しい教えが行われる時代)は二十小劫続き、像法(形骸化しつつも教えが残る時代)もまた二十小劫続くであろう。

想像してみるがいい、その世界を。  そこには、穢れや悪、瓦礫、イバラ、排泄物といった不浄なものは一切ない。  大地は瑠璃(ラピスラズリ)のように青く澄み渡り、平坦で、穴やくぼみ、険しい丘など存在しない。  道は黄金の縄で区切られ、宝樹が並木を作り、空からは常に宝石の花が降り注いでいる。どこまでも清潔で、美しい世界だ。

そこに住む菩薩たちは無量千億。声聞たちもまた数え切れない。  魔や邪道が入り込む余地はなく、たとえ現れたとしても、皆すぐに教えに帰依し、仏法を護るようになるだろう。

世尊は、この輝かしい未来を詩(うた)に託して重ねて説かれた。

――諸々の比丘たちよ、わが仏眼をもって迦葉の未来を見れば、  無量無辺の時を超え、仏となることは疑いない。  来世において三百万億の仏を供養し、梵行(清らかな修行)を修め、  最上の両足尊(人間の中で最も尊い者)として、一切種智を習い、仏となる。

その国土は瑠璃の地面、宝樹の並木、黄金の道。  常によい香りが漂い、美しい花が散りばめられ、見る者の心を躍らせる。  土地は平らで、菩薩たちは数え切れず、心は穏やかで神通力を持ち、大乗の教えを護持する。  声聞たちもまた、最後の身(煩悩を断ち切った体)を持ち、法王の子として無数に存在する。  仏の寿命は十二小劫、正法二十小劫、像法二十小劫。  光明世尊の未来は、まさにこのようになるであろう。

摩訶迦葉が未来に開く「光徳国」。瑠璃の大地と黄金の道が輝く清浄な世界

飢えた旅人、王の食卓へ

その時だった。  大目犍連(だいもくけんれん)、須菩提(すぼだい)、摩訶迦旃延(まかかせんねん)たちは、身を震わせた。  迦葉への授記を聞き、一心に合掌し、瞬きも忘れて世尊を仰ぎ見た。  彼らの胸に去来したのは、強烈な憧れと、わずかな恐れだった。  「私たちも……もしかしたら」

彼らは声を揃え、心の丈を詩に託して訴えた。

――大雄猛世尊(だいゆうもうせそん)、釈獅子よ。  我らを憐れんで、仏の声を聴かせたまえ。  もし我らの深心を知り、記別(未来の予言)を授けてくださるなら、  それはまるで甘露を浴びたように、煩悩の熱を除き、清涼となるでしょう。

たとえば、飢饉の国から来た者が、突然、大王の食卓に出会ったようなものです。  目の前に御馳走がある。だが、心には疑いと怖れがある。  「本当に食べていいのだろうか? これは夢ではないか?」と、すぐには手を出せない。  しかし、もし王が「食べよ」と許しを与えてくれたなら、初めて安心して口にできるでしょう。

私たちも同じです。  小乗の過ちを反省し、どうすれば無上の智慧を得られるのか迷っています。  仏の声が「お前たちも仏になる」と告げるのを聞いても、まだ心のどこかに憂いと怖れがあります。  それは、王の許しを待つ飢えた者の心境です。  もし今、仏からの授記をいただけたなら、私たちは安らかになれるでしょう。  大雄猛世尊よ、願わくは我らにも予言を授けたまえ。  飢えた時に、食事を許された者のように。

王の豪勢な食卓を前に、恐れと期待で立ち尽くす飢えた旅人たち

第二の光――須菩提への約束

世尊は、弟子たちの切なる願いを知り、諸々の比丘たちに告げられた。

「この須菩提(すぼだい)もまた、未来において仏となるであろう」

彼は三百万億那由他(なゆた)の仏を見奉り、供養し、敬い、常に梵行を修め、菩薩の道を全うする。  そして最後の身において、仏となる。

「その名を、名相如来(みょうそうにょらい)と言うであろう」

優れた相を持つ者。十種の称号を備えた仏だ。  劫の名は「有宝(うほう)」、国の名は「宝生(ほうしょう)」。  その国土は平坦で、水晶の大地が広がり、宝樹が美しく並ぶ。  丘やくぼみ、砂礫、イバラ、排泄物などの不浄はなく、宝の花が地面を覆い、どこまでも清浄だ。  人々は皆、七宝でできた台(うてな)にある、素晴らしい楼閣に住んでいる。

声聞の弟子たちは無数であり、計算や譬喩で表現できる数ではない。  菩薩たちもまた無数千万億那由他。  仏の寿命は十二小劫、正法二十小劫、像法二十小劫。  その仏は常に虚空(何もない空間)に座し、人々のために法を説き、無数の菩薩と声聞を救うであろう。

世尊は、重ねてこの意義を詩に託して説かれた。

――諸々の比丘たちよ、今まさに告げよう。  皆、一心に私の言葉を聞くがよい。  私の大弟子・須菩提は、必ず仏となる。名を名相と言う。  無数万億の仏を供養し、仏の行いに随って、徐々に大道を成し遂げるであろう。  最後の身において、三十二相の端正な姿となり、宝生という素晴らしい浄土を開く。  その世界は水晶ででき、美しく、衆生は皆、清らかな心を持つ。  彼らはこの世で最高の悟りを求め、名相仏はその深い智慧をもって、彼らを導くであろう。

水晶の大地に浮かぶ楼閣と、虚空で法を説く名相如来の幻影

次に続く

■ 主な参照文献

  • 『現代語訳 法華経』(2025年11月刊」)
    創価学会教学部 編(聖教新聞社)
    ※本文の構成・現代語訳・語義理解の確認に使用
  • 『法華経(上)』
    坂本幸男・岩本裕 訳注(岩波文庫、岩波書店)
    ※サンスクリット原典の構造および仏教用語の学術的確認のため参照
  • 『妙法蓮華経 並開結』
    (鳩摩羅什 訳)
    ※漢訳原典に基づく章構成・ストーリーの流れの確認に使用
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