譬喩品の最後、釈尊(世尊)はそれまでの穏やかな語り口を一変させ、この経を誹謗する者に訪れる凄まじい因果応報を突きつけます。それは単なる脅しではありません。真理を軽んじることが、どれほど深く己の魂を傷つけるかという、父としての、そして師としての「最期の警告」なのです。同時に、この重圧に耐えうる「真の修行者」の条件が明かされます。
禁忌。五欲に溺れる者にこの経を語るな
「舎利弗よ、よく聞け。
高慢で怠惰、己の狭い考えに固執している者に、この経を説いてはならない。
五欲――財、色、食、名声、眠り。それらに魂を売り渡し、執着し続けている者に、この深遠な真理を理解する力はない。彼らには語るな。
もし、この経を信じず、あざ笑い、非難する者がいればどうなるか。その者は、全人類が生まれ持つ『仏の種子』を、自らの手で叩き切ることになる。
その疑惑の報いがどれほど重いか。私の言葉を、血を吐く思いで聞くがいい」
奈落。真理を汚した者が辿る、終わりのない暗黒
「もし仏の在世中、あるいは私が去った後に、この経典をそしる者がいれば――。
経を唱える者を見下し、憎み、恨みを懐く者がいれば、その魂は命が尽きた瞬間、阿鼻地獄へと叩き落とされる。
一劫という、気の遠くなるような時間をそこで過ごし、劫が終わればまた別の地獄へ生まれる。それを無数に繰り返す。終わりはない。
ようやく地獄を出たとしても、次は畜生の道だ。
毛は抜け落ち、肉は削げ、皮膚病に侵された黒い犬や狐となって生まれるだろう。人々になぶられ、石を投げられ、飢えと渇きに骨まで枯れ果てる。仏の種を断った報いは、それほどまでに冷酷だ。
あるいはラクダやロバに生まれ、重い荷に背をへし折られ、鞭打たれ、ただ水と草を求めて泥の中を這いずり回る。
あるいは村に入り込んだ狐となり、病と痙攣に震え、片目を失い、子供たちに打ち据えられて野垂れ死ぬ。
死ねば次は大蛇だ。その身は三千五百キロメートル(五百由旬)にも及び、足もなく、耳も聞こえず、ただ腹ばいで進むしかない。その巨大な肉体は、無数の小虫に四六時中食い荒らされ、一瞬の休息も許されない。
この経をそしった報いは、その肉に、その血に、永劫に刻まれるのだ」

呪縛。人間として生まれても続く「欠落」
「万が一、人間として再び生を得たとしても、その身は呪われている。
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……。すべての感覚は暗く、鈍い。
小人、身体の不随、盲(めくら)、聾(つんぼ)、背骨の曲がった者として生まれ、何を語っても人は信じない。
口は常に腐った臭いを発し、鬼や化け物に取り憑かれる。
貧しさに喘ぎ、卑しい身分として酷使され、病に痩せ細り、頼れる者は誰もいない。
他人に近づけば疎まれ、何かを手にしてもすぐに指の間からこぼれ落ちる。
医学を修めたとしても、治すそばから別の病に侵され、自らが病めば救う手立てはない。良薬は毒へと変わり、他人に裏切られ、略奪される。
その災いは、絶え間なく続く。
彼らは長い間、仏の教えに触れることはない。
狂気の中で、静寂を知らず、ガンジス川の砂の数ほどの時間を、障害と孤独の中で過ごすのだ。
彼らにとって地獄は庭園であり、悪道は我が家だ。
人間になっても、常に悪臭と汚れをまとい、醜い執着と怒りの炎を燃やし、鳥や獣と同じように欲に溺れる。
この経をそしる者の罪を語れば、何億年あっても足りはしない」

器。この教えを託すべき「真の漢」たち
「だからこそ、舎利弗よ。知恵なき者にこの経を説いてはならない。
この命の教えを授けるべきは、以下のような者たちだ。
賢く、知恵に優れ、学識があり、真っ直ぐに仏道を求める者。
過去に億兆の仏に仕え、徳を積み、不動の意志を持つ者。
雑念を払い、常に慈悲を修め、この教えのために己の命すら惜しまない者。
慎み深く、裏切りを知らず、独り山や沢に住んで魂を研ぎ澄ます者。
邪法を説く者を捨て、良き友と親しみ、自らを高める者。
戒律を堅く守り、曇りなき玉のように清らかで、大乗の道を志す者。
憎しみを捨て、実直で、すべての生き物を憐れみ、仏を敬う者。
大衆の中で、何ものにも囚われず、清らかな心で法を説く者。
仏道を求めて四方を探し歩き、ただ大乗の教えのみを銘記する者。
一粒の仏舎利を求めるように、必死でこの経典を求める者。
異教の教えには目もくれず、ただこの道だけに魂を懸ける者。
舎利弗よ。このような者たちこそが、この『妙法蓮華経』を信じ、理解することができる。
劫という時間をかけても、彼らの素晴らしさを説き尽くすことはできない。
おまえは、ただこのような魂の器を持つ者のために、この経を説くのだ」
〈譬喩品第三終わり〉





■ 主な参照文献
- 『現代語訳 法華経』(2025年11月刊」)
創価学会教学部 編(聖教新聞社)
※本文の構成・現代語訳・語義理解の確認に使用 - 『法華経(上)』
坂本幸男・岩本裕 訳注(岩波文庫、岩波書店)
※サンスクリット原典の構造および仏教用語の学術的確認のため参照 - 『妙法蓮華経 並開結』
(鳩摩羅什 訳)
※漢訳原典に基づく章構成・ストーリーの流れの確認に使用
