譬喩品③|三つの車と「地獄の家」。仏が説くこの世の真の姿

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仏は三つの車(教え)を提示しました。しかし、それはあくまで「燃え盛る家」から私たちを連れ出すための手段に過ぎませんでした。今回、仏はその三つの乗り物の正体を明かし、さらに私たちが住むこの世界の「本当の姿」を、目を背けたくなるほどリアルな描写で突きつけます。私たちが直面している「業(ごう)」の正体が、ここにあります。

目次

自由。三つの乗り物が導く安穏の地

「舎利弗(しゃりほつ)よ。私が説いた三つの乗り物は、自由への鍵だ。何ものにも縛られず、何ものにも頼らず、ただ己の魂を研ぎ澄ますための道だ。
この乗り物に乗れば、五つの感覚器官は研ぎ澄まされ、五つの力が身に宿る。七種の修行、八種の実践。それらを経て得られる安穏は、計り知れない。

だが、人にはそれぞれ器がある。

もし、内に知性を秘め、私の言葉を信じて雑念を捨て、ただ一刻も早くこの燃える世界から逃れ、自分自身の平安を求める者がいれば、それを『声聞乗(しょうもんじょう)』と呼ぶ。羊の車を求めて家を飛び出した子供たちと同じだ。

もし、自然の道理を独り静かに見極め、因縁の理を深く知ろうとする者がいれば、それを『辟支仏乗(びゃくしぶつじょう)』と呼ぶ。鹿の車を求めた子供たちの姿だ。

そして、もし、一切を知る智慧、仏の力を求め、自分一人ではなくすべての生命を救いたいと願う者がいれば、それを『大乗(だいじょう)』と呼ぶ。この道を歩む修行者を『摩訶薩(まかさつ)』と名付ける。牛の車を求めて駆け出した子供たちだ。

舎利弗よ。あの長者が、子供たちが安全な場所へ出たのを見て、自らの莫大な富を惜しみなく与えたように、私もまた、おまえたちに等しく最高の乗り物を与える。私は、この世のすべての生命の父だ。我が子たちが苦しみから逃れたなら、私にある無限の智慧の蔵を、すべて分かち合う。誰一人として、小さな悟りで終わらせはしない。如来の悟りという、最高の楽しみをすべての者に与えるのだ。

これは、たった一つの、聖なる教えだ。
私は初めに三つを提示したが、最後に与えるのは、宝石で飾られた安穏第一の大きな車だけだ。長者が嘘を吐いたのではないように、私もまた、嘘を吐いたのではない。おまえたちがすべてを受け取る器になるのを、私は待っていたのだ」

羊、鹿、牛の車を超え、すべての人に与えられる壮麗な「大白牛車」

地獄。朽ちゆく邸宅の生々しき「業」

世尊は、自らの言葉をさらに深く刻み込むように、詩を詠み始めた。その内容は、凄惨なまでにこの世の真理を抉り出すものだった。

「例えば、ある長者に、広大だが古びた邸宅があったとする。
そこは腐敗し、荒廃し、柱の根元は砕け、梁は傾いていた。壁は剥がれ落ち、ゴミと汚れが充満している。
その中には、五百もの人間が住んでいたが、それ以上に蠢くものたちがいた。

鳶(とび)、梟(ふくろう)、鷲、烏。
トカゲ、ヘビ、マムシ、サソリ。
ムカデにイタチ、タヌキにネズミ。
不浄な臭いが立ち込める場所には、糞虫が群がり、狐や狼が死体を食らい、骨や肉を撒き散らしていた。餓えた犬たちが群がり、血眼になって肉を奪い合い、互いに牙を剥いて吠え合う。

その家の恐怖は、それだけではない。
闇の中には、人肉を食らう夜叉や悪鬼が潜んでいる。
人の精気を吸う鬼神クバンダが、醜い姿で地を這い、あるいは宙を飛び、はしゃぎ回っている。彼らは犬の足を掴んで打ち据え、首を絞めて、その悲鳴を肴に楽しんでいるのだ。

喉が針のように細い餓鬼、牛の頭をした鬼。
髪を振り乱し、飢えと渇きに狂い、叫び声を上げながら窓から中を覗き込んでいる。
この呪われた、朽ち果てた家。それが、おまえたちが住んでいる世界の姿だ」

崩れかけた屋敷の闇に蠢く魔物たちと、荒廃した世界の象徴

猛火。迫り来る終焉と父の咆哮

「長者が少し家を離れた隙に、その邸宅から突然、火が上がった。
四方から一斉に火の手が回り、柱や梁は轟音を立てて裂け、崩れ落ちる。
鬼神たちは叫び、猛獣や毒虫は穴に逃げ込もうとするが、火からは逃げられない。
徳の薄い餓鬼たちは、火に追われ、互いに殺し合い、血を飲み、肉を貪り食う。
狐たちは焼け死に、さらに大きな獣がその死骸に群がる。
煙は四方に充満し、ムカデや蛇が穴から這い出しては、クバンダに食われていく。

地獄の有様だ。だが、その家の中には、まだ子供たちがいた。
彼らは以前と変わらず、遊びに夢中になっている。
幼く、無知な子供たちは、すぐ背後に死の火が迫っていることにも気づかない。

門の外に立つ長者は、その報せを聞き、愕然とした。
『私の子供たちが、まだあの中にいる。遊びに耽って、焼け死のうとしている』
長者は驚き、燃え盛る家の中へと飛び込んだ。
何としても、彼らを救い出さなければならない。
火の熱さを、鬼神の恐ろしさを、連続して断えることのない苦しみを、父は叫び、説き伏せようとする。

『おまえたち、早く出ろ! そこにあるのは、死だけだ!』」

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猛火に包まれる屋敷と、子供たちを救うために炎の中へ立ち向かう父

■ 主な参照文献

  • 『現代語訳 法華経』(2025年11月刊」)
    創価学会教学部 編(聖教新聞社)
    ※本文の構成・現代語訳・語義理解の確認に使用
  • 『法華経(上)』
    坂本幸男・岩本裕 訳注(岩波文庫、岩波書店)
    ※サンスクリット原典の構造および仏教用語の学術的確認のため参照
  • 『妙法蓮華経 並開結』
    (鳩摩羅什 訳)
    ※漢訳原典に基づく章構成・ストーリーの流れの確認に使用
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